- 2005/03/26 02:33|
- Category: 新国立劇場バレエ|
クレジット
振付・演出:石井潤/音楽:ジョルジュ・ビゼー/台本:児玉明子/舞台装置:朝倉摂/衣装:前田文子/照明/沢田祐二/編曲:ロビン・バーカー
指揮:ロビン・バーカー/演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
新国立劇場中劇場
キャスト
カルメン:酒井はな(25日)/湯川麻美子(26日)/本島美和(27日)
ドン・ホセ:山本隆之(25日)/イルギス・ガリムーリン(26日)/貝川鐵夫(27日)
エスカミーリオ:マイレン・トレウバエフ
ミカエラ:真忠久美子(25日)/川村真樹(26日)/西山裕子(27日)
スニーガ:市川透
フラスキータ:西川貴子(25日)/大森結城(26日)/遠藤睦子(27日)
メルセデス:厚木三杏(25、26日)/寺島ひろみ(27日)
パスティア:ゲンナーディ・イリイン
街の女:高橋有里、内冨陽子、さいとう美帆、鶴谷美穂、寺島まゆみ、丸尾孝子、神部ゆみ子、難波美保、大和雅美、岡村未央、沖田美延、尾原貴子、岸川章子、北原亜希、工藤千枝、杉崎泉、千歳美香子、中島郁美、深沢祥子、堀岡美香、今村恵、葛岡絵美、佐藤絵理、下拂桃子、田中若子(交替出演)
街の男:グリゴリー・バリノフ、吉本泰久、井口裕之、佐々木淳史、沢田展生、高木裕次、西梶勝、小笠原一真、エリク・T.クロフォード、泊陽平、アンダーシュ・ハンマル、内藤博
騎兵:陳秀介、冨川直樹、中村誠、佐々木淳史、沢田展生、高木裕次
看守:沢田展生
闘牛士:陳秀介、江本拓、冨川直樹、中村誠
密輸人:佐々木淳史、小笠原一真、アンダーシュ・ハンマル、内藤博
感想
3日分まとめて書きます。長文御免。
主役キャストに惹かれて3日間通いました。総じての感想は「ダンサーはみなさんすばらしかった。演出/振付は改訂と再演を重ねればいい作品になっていくと思うので、ぜひ再演をせめて今回の倍の日数でお願いしたいなー」という感じかな。「意外さ」と「どっかで見た感」が交錯する演出ですが、石井さんの「意欲作」ではあるのでしょうし、「自分たちの作品を踊る」という誇りと自信にあふれたダンサーを見るのはとても心地よかったです。
ホセの心理描写が細やかで振付も秀逸だったので、ホセの側へ感情移入しやすかったです。男性(つまり石井潤さん)には確かにホセの心情の方が描きやすかったのだろうと思いますし、そんなホセが惚れて人生の階段を踏み外してしまう程の女、カルメンが自我の強いだけの女じゃホセがかわいそうだと思った、とか?確かに人間誰しも弱い部分はあるものですが、自分の人生を好きに生きる女ならばその辺は自分の中にしまって自分に責任持つでしょ、というのがある程度年齢を重ねた女性の意見ではないかと(笑)。カルメンの弱さや孤独を描くならば、あんなに時間を割かなくても、ほんのちょっとのしぐさで十分表現できたのではないか、という気がしてなりません。
ただ、今回はたぶんシーズンのラインナップが決まった時点で、1作品だけでお金を取るということが決まってしまったのでしょうから、もしかしたら無理矢理話を膨らませて2幕仕立てにしたということがあるのかも。無理に長い1作品として上演するよりは、すっきり短めにして、もう1つ「エメラルド・プロジェクト」として何か作るとか(予算がきびしければ、クラシックの小品でも上演するとか)してもよかったんじゃないか、と思いました。来期はラインナップに入っていない「エメラルド・プロジェクト」の方向性とかも気になりますが・・・。シーズンチケットの関係があるにしても、「いい作品をつくって見せる」ことを念頭に置いて、観客とバレエに対して真摯でいてくれるなら、少しくらい「未定」の部分があっても観客は支持すると思うんですよねー。
パフォーマンスの話からずれてしまいましたが、前述の通りダンサーはとてもよかったです。カルメン役の3人のうち、酒井さんと湯川さんは、役を自分に引き寄せて自分の中のカルメン的な部分を増幅して役を作り上げていたように見えました。本島さんもそうだったのかもしれないけど、私がまだその個性を掴めてないせいもあって、自分を役に近づけていったのかな、という印象。カルメンの幻想の場は、彼女が一番違和感なく演じていました。おねーさん2人は「満たされない思いに追いつめられる(パンフレットより)」ようなタイプに見えないんですよね。自分の人生ちゃんと自分で落とし前付けるタイプだもん。本島さんもきっとそういうタイプだと思うんだけど、たぶん私が「自分を役に近づけた」と感じたのは、この幻想の場での印象の違いからだと思います。
酒井さんは自分が内側に持つ激しさに翻弄されて破滅した女。たぶんドン・ホセに出会わなくても、そのうちどっかで破滅しちゃうんだろうな、という感じ。湯川さんは視線と動きが「カルメン」を生きていて鮮やか。でも実は意外としっかり者風というか(ご本人のキャラだと思うけどね)ドン・ホセに出会わなければ、けっこう幸せにたくましく生きて行くんだろうなと思わせる。本島さんは見事な女優っぷりで心理描写がわかりやすかった。ツニガに迫られた時の拒否の仕方も、ミカエラへのあからさまな嫉妬もホセへの愛情から。「このまま一緒にいると破滅する」と感じてホセを拒絶したり、なにしろわかりやすくて素直な表現。ラインが一番強くてきれいだったのは酒井さんだと思うけど、三人三様のカルメンでおもしろかったです。
ホセは、まず初日の山本さんの踊りの切れがすばらしかった。酒井さんとのパートナーシップは安定しているし、激しい酒井カルメンに翻弄されて、パリッとした軍服姿から徐々に落ちぶれていく様子がなんとも切なくて。2幕のソロは山本さんがすごいのだと思っていたら、ガリムーリンも貝川さんもそれぞれの年齢に合った切なさとか哀しみの表現をしていて、これは振付もいいのだわーと思いました。ガリムーリンは若いとはいえないホセだけど、それだけに道を踏み外した後の哀しみというのは何とも言えないものがあって・・・抑えた表現で最大限のことが語れるのはベテランダンサーならではだと思うし、彼の瞳にいっぱいの哀しみはちょっと忘れられない程。この円熟味につりあう新国立のダンサーは湯川さんしかいないと思った次第。貝川さんは何よりそのプロポーションの良さにうっとり。時々段取りを追うような、ふっと役から素に戻る時があるのだけど、若さゆえの一途さでカルメンを想う熱さとナイーブさが魅力的でした。初主役ということを考えれば十分すばらしい舞台だし、今後も楽しみなダンサーです。
そうして3組を見比べると、「初日の驚きとは別のところでもう1度初日キャストを見たい」という風に思ってしまうんですよねー。あの山本さんのホセがもう1度見たいです。
エスカミーリオのトレウバエフくん及び闘牛士軍団には、「街中の憧れ」という伊達男要素、スター軍団のオーラが欠けていました。トレウバエフくんは踊りも表情も優等生タイプなので、ちょっと物足りなかったというか。役柄的にもアピールする場があまりないのに男前っぷりを見せなきゃいけない難しい役だと思うので、あまり言うのは気の毒な気はするんですけどね。重そうな衣装でよくがんばっていたとは思うし。でも、山本さんや貝川さんのエスカミリオも見てみたかったと思ったり。「コンドルのジョー」(笑)的なキャラクターが新国にも必要ですよね。
ミカエラの3人はそれぞれ主役ペアにいいバランスの配役でした。個人的に一番好きだったのは3日目の西川さん。手の動き1つで台詞がこぼれて見えそうな豊かな表現力と、清楚でつつましやかなところがすごくツボでした。真忠さんは踊りの柔らかさと美しさ、川村さんは育ちがよくて芯が強そうな感じ。
そして今回見事だったのは市川さん。「白鳥」のロットバルトなどで見ると、どーも借りてきたような感じというか、そこにぴったりハマらないなぁという印象を受けていたのですが、今回のツニガはすごかった。生き生きと楽しそうに踊っていたし、あのいやらしーいところが最高。古典もその調子で我が物顔で踊ってほしいなぁ。
フラスキータ、メルセデスは、寺島ひろみさんはちょっと厳しかったかなー。西川さんがかなりいい味出してました。厚木さんは踊り始めると他の人より描くラインが大きいので目を惹きます。怪我で休演の楠本さんのメルセデスが見られなかったのは残念でした。街の女の中ではいつもキラキラ笑顔のべっぴんさん深沢さんと、ジプシーの生命力の強さを感じた大和さん(たぶん)がとっても目立っていました。
無音部分の街の男の踊りは、初日と3日目が吉本さん、2日目がバリノフくん。初日が一番気迫がこもっていたかな。「はっ」はバリノフくんの方がよかったかも(笑)。でも、再演の時には一番課題になりそうな部分ですね。
群舞も、持ち味が生かされた振付でとてもよかったと思います。純粋に踊りで表現する部分はほれぼれする見事さ。主役の心情を表す形としての群舞より、踊ってみせる方が断然よかったです。
最終日のカーテンコールの盛り上がり(本日非番のダンサーも私服で舞台上に呼び出された)を見ると、今回の作品が彼らにとって大きな財産になったのは間違いないと思います。私もその場にいられて嬉しかったし、更によい作品にしていってほしいなーと願っています。
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